関ジャニ∞計画

いつもと同じある日のことだった。1人のメンバーが告げた。
「俺、関ジャニ∞辞めよう思うねん」
「はぁ!?」
6人は驚いた。ただ、彼が口にしないだけで、その気持ちには薄々気づいていた。
「もっと音楽のこと知りたいねん。海外に行って勉強したいねん」
「そんな、辞めることないやん。関ジャニ∞続けながらでも…」
「いや、無理や」
「1年ぐらい休んで好きなことやって戻ってくるとかでええやん」
「ダメや。戻って来る場所があったら甘えてしまう」
「……………………………」
その瞳と言葉には強い意志が感じられて、皆口をつむんだ。
それは、まだ春には遠い2月の出来事。
 
そして7月15日、彼は関ジャニ∞ではなくなった。
 
ツアー初日を終えたある日、6人はいつものように楽屋でそれぞれの時間を過ごしていた。食事をとっている者、ゲームをしている者、筋トレをしている者、寝ている者、隣と談笑している者。ただ、その空間は過ごしやすいものではなく、初めて彼から決断を告げられた日から、会見の日から、日々行われてきたツアーリハの日々から、7人最後のテレビ出演を終えた日から、ツアー初日のそのライブ中から、皆ずっと同じ気持ちを抱えていて、決して居心地のいい空間とは言えない場所になっていた。
ついに1人の口が開く。
「やっぱり淋しいな」
一同を重い空気が包み込み、それぞれの手を止めた。「そやな」と1人がそっと同調したあとは沈黙が続く。
「俺な、すごいこと考えてんけど」
1人の言葉に皆彼の顔を見る。
「みんなで事務所辞めへん?」
「はぁぁぁ!?」
音楽のために関ジャニ∞を辞めると告げられた時よりも大きな動揺が彼らに広がる。
「俺な、この3ヶ月間いろいろ考えてん。あいつがおらんくなっても関ジャニ∞頑張ろう思うててん。でもダメや。俺らにはあいつの声と音が必要や。確かに6人でもやれてると思う。あいつに胸張れるようやれてきとると思う。でも7人おってこそ、やっぱり俺らは最高で最強になれるんちゃうかな。あいつにもう事務所に戻る意志がないんやったら、俺らがあいつのとこに行けばええんやないかな…。っていうか、まあ、単純にやっぱ淋しいねん」
遠くを見た彼の目にはうっすら涙が浮かんでるように思えた。
6人の間に沈黙が続く。重い重い、時間が過ぎる。
口火を切ったのは1人のメンバーだった。
「俺は賛成やな」
「はぁ?お前何言うてんねん!仕事はどないすんねや!」
「何も今すぐってことやないし、まわり説得して…」
「説得て…」
ギスギスしてきた空気の中、他のメンバーも口を開く。
「例えばさ、あいつが留学が戻って来たタイミングで事務所辞めるとかどうなん?それやったら多分数年あるんちゃうかな?その間に今ある仕事やり終えて事務所円満退社って、やっぱ無理なんかな」
ずっと発言してなかったメンバーが口を開く。
「事務所辞めるってことは、インディーズで一から音楽やるってこと?俺らだけでは無理やろ」
「協力してくれる人は絶対おるって!」
「それは俺らが今いる事務所の看板のおかげやろ。それがなくなったら誰も助けてくれんかもしれん」
「でも!…でも、それをあいつは1人でやろう思うてるんやろ。あの、人見知りで不器用な男が! 1人より7人の方がなんとかなるんちゃうん?」
「7人寄ればなんとか…やな」
「え?もしかして三人寄れば文殊の知恵って言いたいん?」
「あ………、そうとも言うけどな…」
照れ笑うメンバー。
多少柔らかくなった空気の中、最初に口を開いたメンバーが言う。
「俺は仕事よりも仲間を大事にしたい」
「………………………」
皆、何も喋らなかった。もう誰も何も喋れなかった。口に出さなくても、皆の気持ちは決まっていた。表情が皆、柔らかくなっていた。
「とりあえず、今日の仕事をこなそう。話はまた今度や」
「あ、俺この仕事の後あいつと会うんやけど、今の話してみていい?」
「はぁ?会うってなんで?1人だけずるいやろ!俺も行く!俺も会いたいもん!」
「いや、ツッコむとこそこ!?(笑)」
「でもどうする?『お前らとはもう一緒にやりたない。1人がいい』って言われたら…」
「あいつが嫌がるメンバーいうたらお前しかおらんやろ。お前だけは来るな!」
「えー!なんでそんな意地悪言うん?」
「そういうとこきしょいねん」
「ウオー!」
「うわっ!きしょいやつ来た!ちょ!こっち来んなって!」
ゾンビの真似をして近づいてくるメンバーから逃げ惑う5人。久しぶりに楽屋に笑い声が響く。
それは連日最高気温を更新するほど暑い暑い、7月のある日の出来事。