Heavenly Psycho

ため息しか出やしない。

絶望しか感情がない。

 

またダメだった。

もう何回目のチャレンジだっただろう。

僕には才能がないんだ、と思い知らされる。

 

こんな日は家には帰りたくなくて、丘の上の公園に向かう。

歌手志望の若者だろう、自作の曲なのか、ギター片手に知らない歌を歌っている。散歩なのか幼い子供2人を連れた母親。楽しそうに笑ってる高校生のカップル。三脚カメラで風景を撮っている父親ほどの年齢の男性。

ちらほら人はいるが、いくつかのベンチに空きはあり、一番街に近いところに腰をかける。

夕陽のオレンジ色が街を照らしている。

買ってきた缶ビールを開け、一口口に含む。

『なんですぐ飲み込まないんだよ』

そう言ってあいつはよく笑ってたな。

 

あいつこそ才能のある人間だった。

あいつじゃなく僕こそが死ぬべきだったんだ。

 

缶ビールを一気に空にする。

空を見上げると、夜が訪れようと遠くの方からオレンジを侵食しているところだった。

 

目を閉じる。

あいつが生きてたら、僕をどう励ましてくれただろう。

気がつくと涙が溢れていた。

 

「お兄ちゃん、悲しいことがあったの?」

 

近くで子供の声がして目を開ける。

幼稚園か、小学生でも低学年はどの年齢であろう男の子が僕を見ていた。親は?と思い見渡すと、少し離れたところで母親らしき女性が赤ん坊のおむつを取り替えていた。こちらには気づいていないようだ。

「うん、ちょっとね」

精一杯の作り笑いをする。

「悲しい時は我慢しないで泣いた方がいいんだって。そしたら起きた時悲しいこと忘れちゃってるんだって。だから次の日もまた頑張れるんだって。パパが言ってた。あとね」

男の子が僕を手を握り、目を閉じる。数秒経ち、笑顔で僕を見る。

「はい!パワー注入完了したよ!」

「………!」

その瞬間、僕の涙腺は崩壊した。慌てて拭う。

「ごめんごめん!すごく注入されたからびっくりしちゃった」

男の子は僕の涙に少し驚いた顔をしていたが、

「もっと注入したい時は、体をぎゅーってするの」

そう言った男の子の左頬にあいつと同じところに小さなほくろを見つける。

「帰るわよー!」

母親の声がして男の子がそちらへ顔を向ける。

「はーい!」

僕は目が合った母親に軽く会釈をした。

「じゃあね、バイバイ」

男の子が手を振り去って行く。

「バイバイ。ありがとう」

振り返した僕には作り物ではない笑顔が出ていた。

 

家族の姿を見送り、前を向くと、オレンジ色は消えそうになっていた。

 

僕が落ち込んでいた時、あいつはいつも話を聞いてくれた。

「俺だって同じだよ。1人じゃないよ」と言ってくれた。

いつもそばにいて一緒に笑ってくれていた。でも怒ってもくれていた。

これからもその日々は続くと思っていた。

あいつがいなくなった時からずっと、夢を叶えなければというプレッシャーに押しつぶされそうだった。

足掻いて、いつも足掻きっぱなしで、1人で戦うことは本当につらいと思っていた。

 

でも。

 

きっとさっきのは、小さなあいつだ

「がんばんなきゃな」

ふと、言葉がこぼれた。その気持ちこそ、今の僕の本心なのだろう。

 

立ち上がる。

「もうちょっとがんばってみるよ」

あいつに話しかける。

歌うたいの若者の歌が丘に心地よく響いていた。

空はすっかりと夜に包まれていた。

 

 

いつも夢に 選ばれないまま 陽が昇り 沈んでゆく日々
そこに僕の姿がなくても 世界は簡単にまわった

でもこうして繋いだ手 ひとりじゃないね

胸にHeavenly Psycho 今は未来に向かう道の途中だ
泪にさえも戸惑うことなく 願いを歌う

ありきたりの質問に答えて 許される明日ならいらない
そう言ってはみ出してから 行き着く場所に限界はなくなった

不安だってわかり合って 笑ってたいね

夢にHeavenly Psycho 叫んだ声だけが空に響いた
だから何回もためしてみるんだ 希望の歌

目の前の闇を かき分けて届くまで・・・
震える思いに また登る太陽

胸にHeavenly Psycho 今は未来に向かう道の途中だ
泪にさえも戸惑うことなく 願いを歌う

夢にHeavenly Psycho 叫んだ声だけが空に響いた
だから何回もためしてみるんだ 希望の歌

希望の歌