星の王子様

言われれば思い当たる節はいくつもあった。

夜になるとすぐに眠くなるところ。

顔が重力に負けやすいところ。

普通と思えば普通だけど、その告白を聞いた後だとそういうところまで「そうだから」だと思えてしまう。

 

数分前のことだ。あいつがある告白をした。

最初は独り言のようなつぶやきだった。

「もうそろそろダメかもしれんな」

「どうしたん?何の話?」

耳にした皆が声をかける。

「ん?なにが?」

「なにが?って、今『ダメかもしれん』って言うたやん。何がダメなん?」

「うーーーーーーーーん」

あいつは言い淀む。

「どないしてん?」

「言うだけ言うてみいや」

あいつが口を開いた。

「あんな…」

渋々という感じであいつは話し始める。

「実はな…、俺宇宙人やねん」

「…………………………はぁ!?」

皆が一斉にあいつに顔を向ける。言葉を挟む隙もなく、そこからはもう堰を切ったように話は続いた。

「俺な、おかんに『あんたはガチャガチャで出てきた』って言われとったけど、あれあながち間違いやなかってん。おかんが夜中に空見とったらなんか光るもんが落ちていて、見に行ったら赤ん坊の俺が泣いとったんやって。やから俺、星の名前なんやって。でな、今まで普通に暮らしてきとったけど、最近体を保つのがしんどなってきててな。あとな、そろそろ星継げってメッセージが来るんよね」

「星継げ…ってどこから?」

「そら、生まれた星からに決まっとるやん。俺な、その星の王様の跡取りやってんやて」

「………………………………」

みんな無言になった。

「ほんまごめん。申し訳ないんやけど俺、星に帰るわ」

「帰るって、いつぐらいなん?」

「夏ぐらいかなー」

「夏……………」

「え?ツアーどうするん?」

「そりゃ……出れんよな」

「出れんやないやろ!お前おらんかったらどないすんねん!」

「いや、でももう限界やねん。この体保つのが。俺、ほんまの体はゼリーやねん」

「ゼ、ゼリー?」

「ゼリーいうか、理科の教科書のアメーバーみたいな?」

「そういえば顔の筋肉が重力に負けとったな…」

「それやねんなー」

「っていうか、今の全部嘘やろ?」

「嘘やったらよかったんやけどな」

そこからは誰も口を開かなかった。

「ほんとはもっと早く帰らなあかんかったんやけど、おまえらとおるのが楽しすぎて長くいすぎてしもたわ」

あいつは笑った。俺らはもう何も喋れなかった。いろんなことを考えた。考えても考えても考えはまとまらなかった。どうしようもなかった。

結局はあいつは「音楽留学」という理由でグループからいなくなった。みんな、もうあいつのことは口に出さなかった。

 

俺らは6人で進みはじめた。

 

ツアー初日が終わった夜のことだ。

「ちょっと!みんなこれ見て!」

SNSをよく見ているメンバーが携帯を見せてきた。

「なんや?おまえがかっこよかったって書き込みか?」

「ちゃうちゃう!ライブの感想の合間にこんなんあんねんけど」

みんなが携帯を覗き込む。そこに書かれてたのはある目撃情報。

『ライブやってる時、会場の上空でUFOを見た』

「これって……」

みんな、同じことを考えていた。

俺らは顔を見合わせて、思わず笑っていた。